『50歳からの逆転キャリア戦略』(前川 孝雄著・PHPビジネス新書)を読んでみました。
以前から書店に並んでいましたが、あえて手に取らなかったのは、自分が50代ではなく、まだ関係はないと思っていたからです。
そして、手に取らなかったもう一つ理由は、タイトルにある「逆転」でした。
そもそも現実世界で、映画やドラマのように、分かりやすいドラマチックな「逆転」劇はなく、なんだか軽く、うさん臭さというものを感じていたからです。
実際、『50歳からの逆転キャリア戦略』を読んでみた感想は、よくある一部で自己分析をしましょう的な内容はあるものの、ある意味、真っ当な主張の部分もあり、読んで損はないのかなと思いました。
この記事では、キリオのように、現在40代で、50代を意識しつつある人、ならびに、定年に向けて、何らかの対策を考えたいと思っている人に向け、何らかのヒントを共有できればと考えています。
以前触れた『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』は、60歳前後で早く仕事を辞めようとの主張に対し、『50歳からの逆転キャリア戦略』は、真逆の主張をしていると感じます。
一部青臭い部分はあるかもしれませんが、今後に対する考え方として、真っ当な主張もあると感じました。
今後の職業をどうするべきかを考えている人や悩める人には、一度、読んでみるのもよいのかなと思います。
まだ辞めてはいけない人
『50歳からの逆転キャリア戦略』では、中高年が、「このまま会社にしがみついていてもいいことなさそうだし、もうやめようかな」「今ならまだ退職金を少し上積みしてもらえそうだし」という思いは理解できるが、「まだ辞めるな」と言います。
より正確に言えば、「辞めるな」ではなく、「“まだ”辞めるな」であり、今の会社にいる間にやっておくべきことがまだまだある。であるのだから、準備が整うまでは、衝動的にまだ辞めてはいけないと主張します。
まだ辞めてはいけない人は、以下に該当する人です。
- やりたいことがない人
- 変化に対応できない人
- 根拠なく楽観する人
- 自分を客観視できない人
- 経営の視点や知識に欠ける人
- 自分のことしか考えない人
- 社名や肩書きにこだわる人
「7つのタイプに該当する人は、「まだ辞めてはいけない人」です。もし、自分がこれらの項目のうち、いくつかに該当すると感じたら、今すぐの退職は踏みとどまったほうがいいでしょう。まだそのときではありません。今の会社でやっておくべきことが、まだいくらでもあるはずです。」だと言います。
「やりたいことがない人」や「変化に対応できない人」、「経営の視点や知識に欠ける人」、「社名や肩書きにこだわる人」は、会社を辞めてはいけないとキリオも理解できます。
かくいうキリオも、今のところ何か特にやりたいことはありません。
一方、①~⑦のどれにも当てはまらない人なんて、世の中、どれだけいるのだろう?とも思います。
① ~⑦の条件に関わらず、ほとんどの人がまだ辞めてはいけないと言われているのではないでしょうか。
「お金、肩書き」から「働きがい」へ
「辞めてはいけない人」の条件をご紹介してきましたが、『50歳からの逆転キャリア戦略』は、私たちを取り巻く環境や価値観をめぐってパラダイムシフトが起きていると言います。
パラダイムシフトの大前提には、現代は中間層が消滅し、低賃金層が劇的に増えていくという事態があるからです。
中間層が消滅し、低賃金層が増えていくことは決して歓迎はできないものの、恨み言を言っていても何も始まりません。現実に目を向け、新しいライフスタイルを模索する必要があるのではないかと言います。
私たちは、今まさに、自分たちの価値観の転換が求められているといえるのではないでしょうか。
価値観の転換とは、ひと言でいえば、「給与・肩書き」物差しの人生モデル」から、「働きがい」物差しの人生モデルへの移行といえます。
「給与・肩書き」物差しの人生モデル
我慢して努力すれば、経済的に成功して、家族も養えて幸せになれるという「給与・肩書き」が物差しの人生モデル
「働きがい」物差しの人生モデル
求められる豊かさの定義は、経済的にリッチになる成功ではなく、心が満たされ精神的に豊かになる「成幸」に変わってきています。
努力することですぐに働きがいという幸せを実感でき、その積み重ねで成幸するという「働きがい」が物差しの人生モデル
「給与・肩書き」物差しの人生モデル」から、「働きがい」物差しの人生モデルへの移行において、重要になるのが「キャリア自律」の考え方です。
「キャリア自律」が図られた人とは、自ら役割を創り、周りを巻き込んで、結果を出すことであり、他者から管理・支配されるのではなく、自分の立てた規律や規範に則って働ける人材といいます。
「働きがい」物差しの人生モデルへ価値観がシフトする前提で、人生100年時代に即し、私たち今の40代は、70代、場合によっては80代まで働き続けるために、それよりも若いどこかの段階で、「働きがい」物差しの人生モデルの価値観に転換を図っていかなければならないのかもしれません。(もっとも健康寿命という限界もあると思います。)
また、「定年まで病気一つせず元気に働いてきた男性が、リタイアして自宅でのんびりした途端に体調を崩したという話は珍しいことでありません。」と言われるように、「FIRE」でも、『60歳までに「お金の自由」を手に入れる!』における「FIRA60」でも、結局、働くことをやめてしまえば、健康を害する懸念が伴います。
仮に経済的自由を確立できたとしても、私たちは何らかの形で最低限働き続けていくことの方が、健康を維持し続けられると考えるべきなのでしょう。
人は元気から働くのではなく、働くから元気になる。
50歳からの働き方を変える「7つの質問」
『50歳からの逆転キャリア戦略』の著者によれば、50歳からの働き方を変えるには、「7つの質問」について考える必要があると言います。
7つの質問について、項目を簡単にご紹介しましょう。
「7つの質問」
- 自分の人生があと1年だとしたら何をやりたいですか?
- なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか?
- やりたいことができない本当の理由は何ですか?
- 名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか?
- 会社の外でも通用する「自分の強み」は何ですか?
- その強みを磨き、不動のものにするためには何が必要ですか?
- 今のうちに何から始めますか?
率直に言えば、7つの質問には、人生を考えるうえで重要な問いが含まれていると感じています。
特に、Q1~Q3の「 自分の人生があと1年だとしたら何をやりたいですか?」「なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか?」「やりたいことができない本当の理由は何ですか?」は、仮に今明確な答えがなくとも、常に自問自答していくべき問いではないかと思います。
ところで話は変わりますが、『ハート・ロッカー』(2008年/キャスリン・ビグロー監督)というイラク戦争のアメリカ軍爆弾処理班をテーマにした映画があります。
映画の終盤、主役のジェレミー・レナ―演じるウィリアム・ジェームズ二等軍曹が、息子である赤ん坊に語り掛けるシーンがあります。
それが好きか 動物のぬいぐるみが
パパもママも大好き そのパジャマも 何でも大好きだろ
でも知ってるか
年を取ると好きだったものも―
それほど特別じゃなくなる
このおもちゃも
ただのブリキとぬいぐるみだと気づく
そして大好きだったものを忘れていく
パパの年になると残るのは1つか2つ
パパは1つだけだ
ウィリアム・ジェームズ二等軍曹
大人になるにつれ、自分が好きなことややりたいことを忘れていくものなのではないでしょうか。
Q1~Q3への自問自答は、意外と難しいものと感じます。
話を元にもどしましょう。
一方、Q4の「名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか?」という質問にはギモンも感じます。
リクルートを退職してフリーに転身した著者が、700通の挨拶状を出した際、反応がゼロであったことに基づいて挙げているとのことですが、あまり意味のある質問とは思えません。
もちろん、自営業などでビジネスを行えば、人脈は大切でしょうし、人脈自体を否定はしません。
キリオは、内向的で経理という仕事柄、社内外にあまり人脈を持ちえません。
同様の質問をうければ、前職でつきあいがある人も少しはいるもののおそらくゼロでしょうし、ゼロであるからいう訳ではないのですが、そもそもQ4の質問にあるビジネスのための「知人」とは、あくまでビジネス上の打算前提での人間関係と考えているのではないか?とも感じてしまうのです。
一方で、きれいごとを言っても仕方ありませんし、149ページで「人生後半に必須の3条件」とは「健康」「友達」「希望」であるという主張されていますが、「人生後半に必須の3条件」の主張は全面的に同意します。
『50歳からの逆転キャリア戦略』の主張
本書の主張は、「会社は「学び直しの機会」に溢れている!」のだから、まだ辞めるべきではなく、50代のうちに自律的人材になろうと言っていると、キリオは理解いたしました。
そして、「自律的人材」への6つのステップがあると言います。
- キャリアビジョン構築
- マインドセット
- 相場観・市場理解
- 自己認識・強みの棚卸し
- キャリアプラン・腕試し
- 強みを補強する
さらに、「6つのステップ」に基づき、「やるべきこと」として、以下をあげています。
50歳からの20年を見通す未来年表を作る
仕事があることに感謝し、自ら汗をかく
働き方改革は追い風!アフター5に社外で学ぶ
「T字型」を意識してスキルを伸ばす
会議運営など当たり前の習慣が以外と強みになる
副業にチャレンジして経験値の幅を広げる
ギブ&ギブの精神で社内外の人とのつながりを大切にする
ちなみに少しだけ補足しますと、上の「やるべきこと」の中の「T字型」とは、T字の縦棒が「専門性」を意味し、横棒は「周辺知識」となります。
中小企業へ転職することを想定した場合、T字のバランスの悪い人はなかなか通用せず、T字を意識しながら、自分自身のスキルを伸ばしましょうということになります。
それでは、話を元にもどしましょう。
上記の「6つのステップ」も「やるべきこと」も、全体としては、まあ、そりゃそうだよね…というかんじでしょうか。
正論といえば正論ですが、2つをしっかりできる人とは “優等生”であり、多くの普通の人は、なかなかできないのでは?とも感じてしまうのです。
50代の10年間をすべて意識高くいられる人は少ないでしょうし、結局、惰性に流されてズルズルいってしまうのも人間の「性」ではないでしょうか。
ただ、意見は真っ当かと思いますので、自分自身をどこかでギアチェンジし、少しずつでも「6つのステップ」や「やるべきこと」を考えながら実行していかなければならないのでしょう。
「『50歳からの逆転キャリア戦略』で今後をどうしたいか考えようと思った」のまとめ
この記事では、『50歳からの逆転キャリア戦略』について、キリオなりに理解した点と感想を交えながら、ご紹介してまいりました。
50代にもなりますと、おそらく「このまま会社にしがみついていてもいいことなさそうだし、もうやめようかな」「今ならまだ退職金を少し上積みしてもらえそうだし」と考えることが想像されます。
しかし、著者は、会社を衝動的に辞めてはいけないと言いますし、辞めてはいけない理由とは、50代の10年間を利用し「キャリア自立」を手に入れるためです。
中流危機が叫ばれ、日本全体が貧しくなりつつある世の中で、40代あるいは50代は、さらに「中年危機」も抱えかねません。
厳しい状況において今まさに必要なことは、「給与・肩書き」物差しの人生モデル」から、「働きがい」物差しの人生モデルへの価値観を変えていくことに他なりません。
そして、働き方を変えていくには、以下の7つについて自問自答すべきと言います。
- 自分の人生があと1年だとしたら何をやりたいですか?
- なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか?
- やりたいことができない本当の理由は何ですか?
- 名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか?
- 会社の外でも通用する「自分の強み」は何ですか?
- その強みを磨き、不動のものにするためには何が必要ですか?
- 今のうちに何から始めますか?
重要な問いといえるのではないでしょうか。
ただ、あえてツッコミを入れるならば、やはり「逆転」という言葉が引っ掛かります。
『50歳からの逆転キャリア戦略』は、「お金、肩書き」から「働きがい」へ価値観のパラダイムシフトが起きていると主張しています。今私たちに求められているのは、まさに価値観の「転換」のはずです。
一方、「逆転」という言葉は、今までの流れをひっくり返すという文脈で用いられているのでしょうが、「逆転」に伴う言葉のニュアンスには、所詮、従来の「給与・肩書き」物差しの延長線上で議論しているのでは?とも感じられてしまうのです。(キリオの読解力の問題かもしれませんが…。)
いずれにしろ、「働き方」の考え方や価値観を変えていく必要があるのは間違いなさそうですし、興味がある方は一度読んでみる価値があるかもしれません。