新収益認識会計基準を担当されている経理の担当者も多いと思います。製造業にお勤めで、自動車業界の金型の売上をどうするかで悩まれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ややマニアックですが、金型売上巡って、一経理担当者の経験についてご紹介できればと思います。
この記事を読みますと、製造業で金型が自社のメインの履行義務でないならば、金型を一括で収益認識する必要はない可能性があることがお分かり頂けると思います。
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収益認識会計基準について
まず新収益認識会計基準について、詳しくない方に向けにご説明します。
新収益認識会計基準は、2021年4月から強制適用されます。正式名は「企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準」と呼ばれ、売上に関する日本の最初の会計基準といえます。
今まで売上のルールはなかったの?と思われるかもしれませんが、日本は「実現主義」に基づく単純なルールでした。
実現主義とは、商品および役務の提供とともに、相手から対価相当の現金及び現金同等物を受け取った時点で売上をたてる考え方となります。これ以上でもこれ以下でもなく、きわめてシンプルなものであります。
これに対し、新収益認識会計基準は、取引の契約に基づき原則的に考えなければなりません。すなわち、会計基準には、個別具体的なケースが書かれておらず、契約書に書かれているベースで、売上はどのようにたてるべきかについて自社の取引を考えることが問われてきます。
売上の会計処理の「従来」と「これから」の違い
考え方 | 特徴 | |
従来 | 実現主義 | 単純なルール |
今後 | 原則主義 | 国際会計基準の影響 |
また、通常、会計基準は、日本流にアレンジされ導入されると言われますが、新収益認識会計基準は、ほぼ国際会計基準を丸呑みしています。そのため、不都合が出てきました。
金型処理を検討する際、困ったこと
- 翻訳が悪く、内容の理解に苦しんだ。
- 原則でしか書かれておらず、個々の具体的なケースついて言及がされてない。あくまで、自分で判断しなければならない。
- 新しい会計基準である為、会計士に尋ねてもあまり教えてくれなかった。(分かっていない?)
- インターネットで検索しても、他社事例などが出なかった。また、書かれているサイトはあっても、明確な結論が書かれておらず、正しいかどうかも判断がつけられない。
金型売上について
収益認識会計基準はいくつかの論点がありますが、金型については、売上をあげるべきタイミングが、一時点か、あるいは、サービスを提供するにつれて一定期間にわたっての売上か、に尽きるのではないかと考えています。
なお、一般論として、一時点か一定期間にわたるかについて、収益認識会計基準は、一定期間の要件に当てはまらない場合、一時点で売上があがるものとみなされます。
- 企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受するか
- 企業が義務を履行するにつれて、新たな資産または資産の増価が生じ、当該新たな資産または資産の増価を顧客が支配するか
- 企業が義務を履行することにより、別に転用できない資産が生じ、完了した部分については対価を強制的に収受する権利を有するか
金型取引 会社の事例と自動車業界
自動車業界は、金型を顧客仕様に合わせて製作するため、他に転用することができません。また、金型の製作は高額となりがちであり、サプライヤーには負担となります。
自動車メーカーは、サプライヤーの負担を軽減させるため、金型代の支払いを2年にわたり、24回払いで支払う取引慣行が多いと言われます。
自動車部品を製造する会社に勤めますが、自動車メーカーから支払われる金型代を、毎月入金がある度に売上を立ててきました。その意味で、一定期間にわたって売上を立てるイメージに近いかもしれません。
また、契約ベースで取引を検討しなければなりませんが、金型取引は、メーカーとの取引基本契約では「貸与品」と位置付けられている程度で、具体的な言及もされていません。それに加え、金型そのものの個別契約も確認ができませんでした。
一方で、新収益認識基準では、金型売上は、一時点で売上を立てる意見もあるようです。コンサルタントにも助力をお願いしましたが、このコンサルタントでさえ、一時点で売上を立てる必要があると提案してきました。
また、従来の入金がある度に売上計上をしていく方法を変更し、一時点で売上を立てる方法に変更した場合、会計処理と入金を分けなければならないなど、実務的に煩雑になることが予想されました。
金型取引をどのように考えたか?
結局、結論はなかなか出ず、かなり悩まされることになりました。
検討を重ねていく中で、コンサルタントからは、金型をメーカーに貸し出している「貸手リース」と整理できれば、リース会計基準の範疇になるのだから、収益認識に関する会計基準から外すという事例もあるとのアドバイスがありました。
しかし、この金型取引は、個別の契約書がないため、「リース」と断定できるだけの材料はありません。
また、顧客である自動車メーカーとの取引基本契約の中では、これとは反対に、メーカーからの「貸与品」と位置づけられていることもあり、リースと整理することはなかなか難しいのではないかという結論に至りました。
収益認識の一旦議論を振り出しに戻ることになりました。 そもそもの会社としての履行義務から再考してみようということになりました。
自動車部品メーカーにとっての履行義務 ー金型取引ー
自動車部品のメーカーにとって、金型の製作は、本来の履行義務でしょうか?
本来の履行義務とは、自動車部品の製造であって、金型の製作ではありません。部品の製造がメインの履行義務である以上、金型とは自社にとってメインの履行義務を果たす手段にすぎません。また、金型売上の規模も全体に占める割合に対しては大きくはありません。
結局、 金型は本来の履行義務を果たすための手段。メインの履行義務ではない。
この2点で整理をすることになりました。
担当会計士にもこの検討状況を確認したところ、金型が主要な履行義務でないことを反証することは実際には困難であり、筋は通っているのではないかという見解を得られました。
金型取引を検討して得られた経験から言えること
金型売上の検討の経験をお話しますと、収益認識会計基準は、数学などに似ている印象でした。
つまり、自分が知りえる定理や公式を用いその事を実証し、ストーリーを構築していく。取引について、自分が立てた理屈で筋が通るならば、妥当と認められる可能性があります。
原則で考えないといけない難しさはありましたが、一方で、自由が利く面もあるといえるかもしれません。
「【収益認識会計基準】金型取引は一時点で売上をたてる必要はない」のまとめ
自動車業界における金型売上は、メーカーからの入金の都度、売上を立ててきた慣例があります。しかし、金型売上がメインの履行義務でなく、「重要性が乏しい」という整理が成り立てば、一時点で売上を立てる方法に変更する必要はない可能性があります。
もちろん、ここでの記事が、そのまま他社で通用するかどうかは分かりません。実際には、会社の担当会計士に確認するようにしてみてください。
しかし、もし迷われている方がいらっしゃるのであれば、一定期間にわたって収益を認識する方法で検討の余地があるかと思われます。ご参考頂ければ幸いです。