FIRE(Financial Independent Retire Early)がムーブメントになっています。
書店での売れ筋はFIRE関連本ですし、テレビで私が見た2つの情報番組でも、「FIRE」を特集していました。(2番組のいずれも、若くしてFIREを達成した、元三菱サラリーマンさんこと、穂高 唯希さんが取り上げられ、憧れであり羨ましい限りです)
元々、欧米で一大ムーブメントになっていたFIREが、日本にも入ったと言われ、キッカケのひとつは『FIRE 最強の早期リタイア術』の本にあるとも聞きます。
個人的にはFIREを目指していくことに賛成ですが、素朴なギモンも感じています。
この記事では、FIREには関心があるものの、何かモヤモヤしたものを抱えられている方向けに、私自身が考える4つの課題を共有したいと思います。
FIREに向き合うためにも、一旦立ち止まって、頭の整理になればと思います。
FIREについて
FIREとは、相応の金融資産を保有することで経済的独立と早期退職を達成し、人生の選択肢を自らの手に収めようという考え方であると理解します。
FIRE達成には、生活費の最適化を図り、余裕資金の大半を金融資産に投資し続ける必要があります。
短期的にFIREを達成するには、積極的な資産運用が求められます。 概ね1億円前後の金融資産と言われ、貯金だけで多額の資金確保することには限界があるからです。
投資は、元本が大きければ大きいほど有利な世界ですし、時間を味方にするという側面があります。
この理由から、FIREを目指すには若い時からの行動と経験が有利といえます。 投資経験が乏しいまま、退職金を投資に回し失敗するというのはよく耳にする話です。
一方で、労働を常識としてきた古い世代からすると、「働かないなんて…」と白い目で見る風潮もあるのかもしれません。
自分たちにはやりたくてもできなかったFIREに対して、ある種の屈折的な気持ちもあるかもしれません。
ところで、FIREがどの時点をもって達成されるかは、金融資産から得られる運用収益が、毎年の生活費を上回った時点となります。すなわち、労働から解放され、経済的自由が達成されます。
では、FIREにはいくら必要でしょうか。
結論から言えば、人それぞれ違ってきます。
例えば、年間の生活費が300万円必要な人は、期待される運用収益率である4%で割り返せば、FIREをするためには7,500万円の金融資産が必要です。
もしこの理屈が分かりにくければ、4%とは、100を回収するには、4でもって何年かかるかを考えますので、年数は25年(100÷4=25)が求められます。
すなわち、年間生活費の25年分の金融資産(300万円×25年分=7,500万円)を確保できれば、毎年の運用収益によって、生活費をまかなえられます。
労働せずとも生活でき、自分の好きなことに人生おくれるようになるという訳です。
子どもがいる例をあまり目にしないが、どうなのか?
年間生活費は、家族構成や人数によって異なります。特に、家族数が増えれば、当然生活費は増える他、教育費は子供の成長に応じ増加します。
FIREの達成には、相応の金融資産を保有する必要がありますし、生活費が低ければ、保有すべき資産のハードルは低くなり、FIRE達成も早くなります。
反対に子どもが多ければ、その分だけ生活費は上昇しますので、一般的にハードルは高くならざるを得ません。
『FIRE 最強の早期リタイア術』では、子どもがいてもFIREは達成できるとは書かれていたと思いますが、なかなかハードルは高いといえるのではないでしょうか。
実際に『FIRE 最強の早期リタイア術』の著者は子どもがいませんし、情報番組で特集されている人を見ますと、単身者や子どもがまだいない20代の夫婦中心でした。
もちろん子どもがいても夫婦で力を合わせれば、それなりに達成できるのかもしれません。 しかし、家庭を持ち子どもがいる人にとっては、子どもがいない人と比べると、子どもの「おもし」がある分、FIRE実現に不利に働くのは否めないでしょう。
家庭を持ち子どもをとるのか。 FIREを目指すのか。
両者は同次元で比べられる対象ではないはずですが、実際問題としては、「家庭と子ども」をとるのか、「FIRE」をとるのか、不自然な選択を迫られると感じてしまうのは私だけでしょうか?
仮に定年退職がない世界であった場合、いつ退職を決めるか?
FIREには、”Retire Early”ですから、「早期退職」の意味が込められているのは、異論がないところかと思います。
少子高齢化で働き手が減るため、今後は雇用延長なども議論されますが、サラリーマンの定年は、一般に60歳から65歳の間と定められています。 当たり前の話ですが、早期退職とは、会社等で定められた退職日の前に退職するから、「早期退職」となります。
では、もし仮に定められた「退職」が存在しない世界だったとしたら、あなたは自分の退職をいつの時点で考えるでしょうか?
体力や気力的な限界を感じた時点でしょうか。この先、十分生活できると思えるようになった時点でしょうか。あるいは、その両方かもしれません。または、子どもが成人して手が離れた時点かもしれません。
リストラや病気、家族の介護が必要になるような、不可抗力が発生した時点になるかもしれません。
いずれにしろ、決められた退職日がない場合、どこで辞めるかは個人の選択となります。 そして、よほど若くして退職でない限り、定められた退職日がなければ、いつ退職すべきかに正解はないはずです。
いずれは誰もが労働市場から退出する日はやってきます。
FIREを考える前に、いつに何をもって退職するのか、考えたほうがよいかもしれません。
生産手段を持つ、あるいは、労働市場の流動性が高い場合、早期退職するのか?
これも仮定ですが、例えば、自分がある会社の経営者や事業オーナーである場合、果たして早期退職を考えるのでしょうか?
もちろん、早々に事業を売却して、あとは悠々自適という価値観の人もいるかもしれませんが、多くの場合、FIREという発想は出にくいとも思います。
あるいは、労働市場が、今よりも流動的で出入りしやすく、自由であった場合、FIREを考えたりするでしょうか?
例えば、お金が足りなくなった場合にのみ働くことができ、ある程度稼いだら一旦仕事を離れる。そして、働く必要がある場合また働く。 そのような自由な生き方ができるならば、特段、FIREを考える必要もないのかもしれません。
誤解を恐れず申し上げれば、FIREを考えざるをえないのは、雇われる立場の人です。
それは、自分自身の生産手段を持たなかったり、あるいは、自分の人生を主体的に歩くことが難しい立場の人たちだったりするのではないでしょうか。(自分も含めて…。)
ところで、作家の橘玲氏によれば、『人生は攻略できる』という本で、日本人は世界から見て会社人間であるイメージが強いものの、実は、世界で一番会社を嫌っていると興味深いことを述べられていました。
さまざまな国際調査で、日本のサラリーマンは世界でいちばん会社が嫌いで、自分の仕事にネガティブな感情を抱いていることがわかっている。さらに、1人当たりの労働者がどれくらい利益をあげたかを示す労働生産性で、日本人はアメリカ人の7割しか稼いでいない。
この「不都合な事実」が示すのは、日本人は会社が大嫌いで、過労死するほど働いているけどぜんぜん成果があがっていないということだ。なぜこんなヒドイことになるのか、その理由は2つしか考えられない。
ひとつは、日本人がバカだということ。そうでなければ、日本人の働き方がまちがっているのだ。
『人生は攻略できる』
会社嫌いに陥る要因には、様々な理由が考えられます。
人間関係や評価制度や給料、日本特有の同町圧力、社畜と揶揄されるようなサラリーマンのイメージ、雇用の流動性や乏しさなどもあるのかもしれません。
FIREがムーブメントになる背景には、この「会社嫌い」も相当に影響しているのでしょう。
自身もサラリーマンですから、会社嫌いという意味は痛いほどわかります。
しかし、FIREの前によく考えてみてください。
FIRE以前の問題として、個人が組織に対し、どのように向き合うべきか。 あるいは、副業など別の収入源、何らかの生産手段を持つことを、第一に考えるべきではないでしょうか。
FIREで会社から脱出するという発想は大事ですが、早期退職を行えば「会社」というプレッシャーからは解放されます。
一方で、今まで築き上げてきた「人的資本」を放棄することを意味します。
この点をどう考えるべきでしょうか?
孤独とどう向き合うのか?FIRE後をどう考えるのか?
孤独、あるいは、独りぼっちのお話は、FIREを達成できた人が考えるのであって、達成していないオマエが言う話ではないし、FIREを達成してから考えるべきだろう的な声も聞こえてきそうです。
それはごもっとも指摘ではあるのですが、孤独や独りぼっちとどう向き合っていくのか。
この問いは、FIREを目指す人には避けては通れない問いなのではないかと思います。(FIREに限らず、人生のテーマであるのかもしれませんが…。)
仮にFIREを達成した場合、職場に行かなくてもよくなり、あらゆる雑事からも解放されます。
しかし、考えてみてください。
世の中の大半の人は、おそらく普通に日中まだ仕事をしているでしょうから、会える人は限られてきれます。
引きこもるのが好きでも、人に会う機会が減れば、やはり孤独を感じるかもしれません。
また、定年退職して6カ月ぐらいは楽しいが、それ以降は生活の単調さに飽きてくるとも聞きます。
FIREを達成した場合、FIREを達成した人同士での付き合いが生まれるでしょうが、孤独とどう向き合うかが問われるかもしれません。
また、FIRE達成後をどのように生きていくかも問題かと思います。
趣味やしたいことがあればよいですが、特に何もやることがない場合、過ぎていく時間に対し苦痛を感じるだけかもしれません。仮に、FIREを達成して、好きな映画を観続けていたとしても、いつかは飽きるのではないでしょうか。
また、忙しくないと、人間は死んでしまうと主張する人がいましたが、やることがなくなった途端、病気になったり、場合によって、認知症になるかもしれません。
健康を害すれば、何のためにFIREを達成したのか、元もこうもありません。
FIREを達成したとしても、何かしらの形で働き続ける人がいるのも納得のいく話です。(ただし、その仕事は自分が本当にやりたい仕事にはなることでしょう。)
やはり、FIREを目指していても、FIRE達成後をどう生きたいのか考えた方がよいのだと思います。
「FIREを目指す前に考えたい4つの課題」のまとめ
FIREに対して決して反対ではなく、むしろ、望ましい事であり、実現したい生き方であると思います。
しかし、であるからこそ、FIREと向き合う前に、素朴なギモンを書いてみました。
すなわち、
- 子どもや家族がいる場合、どうなるのか。
- 退職日を自分が決める場合、どうするのか。
- 生産手段を持つ、あるいは、労働市場が自由で流動性が高ければどうなるのか。
- 孤独やFIRE達成後どうするのか
であります。
FIRE目指すのであれば、避けては通れない問いなのではないでしょうか。
関心のある方は、ぜひ頭の体操だと思い、考えてみてはいかがでしょうか。